【セミナーレジュメ】 「遺言と信託の活用」
- 2016.07.04
仙台市青葉区二日町1番23号 -10F
官澤綜合法律事務所.℡214-2424
弁護士 官 澤 里 美
遺言と信託を活用した上手な財産の承継方法
第1 相続等の財産承継の早期検討の大切さ
多くの方々の誤解
まだ元気なので対策の検討は早い?
子供たちは仲が良いので対策は不要?
財産が少ないので対策は不要?
相続税が支払えるか心配?
☆ 家族や子孫の平穏な生活のために、自分の平穏な老後のために、早めに老後の生活や相続対策を考えた遺言や信託を活用した財産の承継方法を検討し出すことが大切!
第2 相続の基礎
1 法定相続人(民§ 887~890)と法定相続分(民§900)
① 配偶者1/2 2/3 3/4
② 子 1/2 ⇒ 直系尊属1/3 ⇒ 兄弟姉妹1/4
但し、父母の一方のみ同じの兄弟姉妹は双方同じ兄弟姉妹の1/2
Q:借金は相続されるか?
保証人の責任は相続されるか?
2 法定相続人の取り得る態度(民§915 相続人になったことを知って3ケ月以内)
a 放 棄(民§939)…3ケ月以内に家庭裁判所に申述
→初めから相続人とならなかったものと見做される
b 限定承認(民§922)…3ケ月以内に家庭裁判所に申述
→相続財産の範囲内で相続債務を弁済
c 単純承認(民§920)
第3 遺言がない場合の遺産分割の手続
1 協議(話し合い)
相続人全員で話しがまとまれば、法定相続分にとらわれず、自由に分割の内容を決められる。
→遺産分割協議書
2 家庭裁判所での調停(話し合い) →調停調書
相続人全員の意見の一致が必要。
3 家庭裁判所での審判 →審判書
法定相続分をもとにして、各人の仕事、生活等を考慮して裁判所が分割方法を決定(民§906)
[説例1]
Xは、農業を営んでおり、妻は既に死亡していた。長男Yと次男Zがいるのであるが、長男Yは、結婚し、Xと同居して農業を手伝ってきていた。次男Zは、結婚独立しているが、家を建てる際にXから700万円の贈与を受けている。Xの財産としては、Yと同居している土地建物と田(時価合計1000万円)及び宮城銀行の預金300万円とYの働きによるX名義の仙台農協の貯金 300万円がある。
Xが死亡した場合、YZの相続分はいくらとなるか?
父X…不動産1000万円・宮城銀行300万円・仙台農協300万円 ⇒合計1600万円
長男Y…父と同居して農業を手伝い
次男Z…家を建てる際に700万円貰う
1600×1/2で800万円ずつか?
☆法定相続分では不公平な場合の調整
特別受益者…被相続人から贈与等を受けた相続人の相続分を少なくする。
民§903…共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定によつて算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額を以てその者の相続分とする。
寄 与 分…被相続人の財産に寄与をした相続人の相続分を多くする。
民§904の2…共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定によつて算定した相続分に寄与分を加えた額をもつてその者の相続分とする。
寄与分を300万円と考え、説例1に当てはめれば、
1600+700(特別受益)-300(寄与分)=2000
Y:2000×1/2+300(寄与分) =1300
Z:2000×1/2-700(特別受益)=300
第4 対策(1)…遺言
被相続人の意思の尊重…遺言に従い相続が行われる。→揉め事を減らせる。
法定相続人以外にも可。
1 遺言の方法(民§967-984)
法律に定められた形式を守らないと無効となる!
確実な方法…公正証書遺言 (民§969)
簡易な方法…自筆証書遺言 (民§968)
全文、年月日及び氏名を自書・押印
何を誰に相続させたいかを明確に書く
※簡単な遺言の文例 …ポイントは何を誰に相続させるか明記すること!
例1:一人に全財産を相続させたい場合
遺 言 書
全財産を、長男 甲野一郎 に相続させる。
平成27年11月19日
甲 野 太 郎 (印)
Q:パソコンで本文を書いてプリントアウトして直筆で署名したら?
Q:平成27年11月吉日は?
Q:拇印は?
例2:分割して相続させたい場合、次の財産を、長女 甲野春子 に相続させる。
仙台農協根白石支店の貯金すべて
次の財産を、長男 甲野一郎 に相続させる。
仙台市泉区根白石字君が代3番の土地・同所3番地3番の建物
他のすべての財産を、長男 甲野一郎 に相続させる。
[説例2]
説例1において、Xが「全財産をZに相続させる。」との遺言を残して死亡した場合、Yは、Xの遺産を全く取得できないこととなるか?
☆遺留分による制限(民§1028~1044)
被相続人の近親者に留保された相続財産の一定の割合。
(遺産への貢献・遺族の生活を考慮)
兄弟姉妹 →無
直系尊属のみが相続人 →被相続人の財産の1/3
その他 →被相続人の財産の1/2
遺留分侵害額請求(民§1031)
遺留分を侵害する遺言も有効。
遺留分を侵害された者で遺留分を取り戻したいと思う者は、1年内に取り戻しの請求(減殺請求)ができる。
◎ 相続の際の揉め事を減らし、節税して財産を子孫に継いでいくためには、遺留分も考慮した遺言を行っておくことが大切!
第5 対策(2)…信託
1 信託とは
「信」じて、「託」すこと。 中性ヨーロッパの十字軍が起源?
特定の者に財産を譲渡し(信§3)、同人が一定の目的に従い、財産の管理又は処分等の同目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること(信§2①)。
◇財産を譲渡・信託
委託者 → 受託者 ◇信託目的で財産の管理・運用・処分
(名義上所有者) ※委託者・受益者により監視・監督の外、
↓ 信託監督人・受益者代理人のチェックも可。
受益者 ◇財産からの利益、使用等の受益
(実質的権利者)
(実質的権利者)
2 家族信託とは
信託銀行等を利用するような営利を目的とする商事信託ではなく、自分の老後や死亡後の財産の管理・処分を信頼できる家族に託す信託。家族の、家族による、家族のための信託。
3 信託のメリット
遺言との比較
・柔軟な給付の実現
・数世代先までの相続先指定
・財産の引継ぎが円滑・簡便
成年後見との比較
・資産の積極的活用が可能
・本人の死亡後の処理が容易
(注) 信託そのものが節税とはならない。
信託は遺言等に比べて複雑で難しい。
信頼できる受託者が必要。
第6 遺言・信託の財産承継への活用方法
[例1] 相続人は子供一人だが、節税対策を行う必要があり、相続の手続もできるだけ簡単にしたい。
A ・遺言…「AはCに全財産を相続させる。」
| →相続手続は簡単になる。
C ・信託…Aを委託者兼受益者・Cを受託者
→Aが呆けてもCが受託者として融資を受けてアパート建築を行う等の節税対策が容易にできる。
※節税対策が不要でも、不動産をAの老後の資金に活用することが容易になる。
[例2] 子供がいない夫婦で、先祖代々の不動産を一族の者に相続させたい。
ア―――A B―――イ …… ウ (※再婚相手として登場)
(自宅)
C
CをAアの養子にする? ⇔ そこまでは…
アにCに遺贈する旨の遺言を書かせる? ⇔ アが書き直しも…
例えば、次のような家族信託で解決することも可能
・当初はAを委託者兼受益者に、Cを受託者に指定。
・Aが死亡した際の第2受益者としてアを指定。
・Aアの死亡時に信託終了、残余財産をCが取得。
※この信託は、高齢者が子供に祝福されて再婚するためにも利用できる!
例えば、自宅等を所有するイが、同級生ウと再婚しようとしたら相続で揉めることを恐れたCから反対された場合、次のような信託で解決可能。
・当初はイを委託者兼受益者に、Cを受託者に指定。
・イが死亡した際の第2受益者としてウを指定。
・イウの死亡時に信託終了、残余財産をCが取得。
[例3] 子供は長男・長女の2名で、主な財産は自宅と隣接するアパート。同居してくれている長男に多く相続させたいが、長女にもある程度のものをわけてやりたい。
ア―――A (自宅)
| (アパート)
B C
自宅はB、アパートはBCに相続させるとの遺言?
⇔ アパート管理でトラブルの恐れ!
例えば、次のような家族信託で解決することも可能
・当初はAを委託者兼受益者に、Bを受託者に指定。
・Aが死亡した際の第2受益者としてアを指定。
・Aアも死亡した後にアパートの収益の半分の受益権を有する第3受益者としてCを指定。
※アパートがBCの共有となってしまった場合のトラブル防止策
→BCの仲が良いうちに、BCを委託者兼受益者に、Bの子のDを受託者に指定する家族信託の設定等
[例4] 子供は長男・長女の2名で、主な財産は自宅とアパート2棟(自宅に隣接するものと他の場所のもの)。自宅と隣接アパートは、長男に相続させる予定だが相続税対策等のため建替を考えている。他の場所のアパートは長女に相続させたい。
ア―――A (自宅・アパート)
| (他のアパート)
B C
自宅と隣接アパートはBに、他のアパートはCに相続させるとの遺言をし、Aが認知症になったらBが成年後見人?
⇔ 成年後見では相続税対策には制約…
例えば、次のような遺言と家族信託で解決することも可能
・他のアパートはCに相続させるとの遺言。
・自宅と隣接アパートは当初はAを委託者兼受益者に、Bを受託者に指定。Bが自宅と隣接アパートの建替等を行う。
・Aが死亡した際の第2受益者としてアを指定。
・Aアの死亡時に信託終了、残余財産をBが取得。
[例5] 障碍のある子供の将来を甥に託し、子供死亡後は甥に相続させたい。主な財産は自宅と隣接するアパート。
ア―――A B―――イ
| |
DC(障碍者) D
Dを成年後見人に選任し、財産はCに相続させる旨の遺言。相続後の財産管理をDに行ってもらう?
⇔ 成年後見では財産管理に制約&C死亡後の財産の行方が…
例えば、次のような家族信託で解決することも可能
・Cの成年後見人として弁護士等の外部専門家を選任。
・当初はAを委託者兼受益者に、Dを受託者に指定。
・Aが死亡した際の第2受益者としてアを指定。
・Aアが死亡した際の第3受益者としてCを指定。
・Cの死亡時に信託終了、残余財産をDが取得。
第7 最後に
自分の老後、死亡後に家族が平穏に円満に暮らしていけるように、早めに専門家に相談して、遺言、後見、家族信託など、自分の家族に相応しい対策を行っておくことが大切。