改正相続法の上手な使い方と落とし穴(第1回)
- 2020.01.17
仙台市で30年以上にわたって数多くの遺言、遺産分割、遺留分請求等の相続関係の事件を取扱い、遺言の書き方等のセミナーの講師を務めておりますが、平成30年成立の相続法の改正についても何回か講演させて戴きました。
そこで、改正相続法の上手な使い方と思わぬ落とし穴について、3回に分けて説明したいと思います。今回はその初回です。
なお、資料と記載しているのは、法務省がHPに掲載した資料をまとめたもので、本HPに掲載した改正相続法説明資料のページですので、参考にして下さい。
弁護士 官澤 里美
第1 配偶者居住権の新設(民§1028) [資料.2p]
被相続人所有の建物に居住していた配偶者について、終身又は一定期間その建物を無償で使用を認めることを内容とする法定の権利を新設(配偶者居住権)し、
配偶者は、遺産分割 又は 遺贈 で配偶者居住権を取得することができる。
建物に、配偶者が死亡するまでの無償の借家権が設定されたようなもの。
(活用例)
例.1 配偶者が自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できる。
例.2 先祖伝来の不動産を相続した長男夫婦に子がいない場合、長男が「妻に配偶者居住権を遺贈し、甥(又は弟)に所有権を相続させる。」との遺言を行うことにより、妻の居住権を確保しつつ、不動産は自分の血族に遺せる。
例.3 再婚を子どもが相続で揉めることを心配して反対した場合、「再婚相手に配偶者居住権を遺贈し、子どもに自宅の所有権を相続させる。」との遺言を行うことにより、子どもにも祝福されて再婚できる。
(注意点)
注.1⇒配偶者居住権を相続させる。との遺言では、配偶者居住権を取得できない!
注.2⇒配偶者居住権の放棄は可能だが、自宅所有者に贈与税が課税される恐れ!
第2 夫婦間の居住用不動産の贈与への持戻し免除の意思表示の推定 [資料.5p]
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方配偶者が他方配偶者に対し居住用不動産を生前贈与又は遺贈した場合については、持戻し免除の意思表示があったものと推定し、相続の際、その居住用不動産の価額を特別受益としないで計算することができる。
民§903 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、900条から902条までの規定によつて算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額を以てその者の相続分とする。
2 略
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは(持戻し免除の意思表示)、その意思に従う。
4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
(注意点)
注.⇒妻に自宅を相続させる。との遺言では、持戻し免除の意思表示の推定を受けない恐れ!
(第2回に続く)