改正相続法の上手な使い方と落とし穴(第2回)
- 2020.02.03
仙台市で30年以上にわたって数多くの遺言、遺産分割、遺留分請求等の相続関係の事件を取扱い、遺言の書き方等のセミナーの講師を務めておりますが、平成30年成立の相続法の改正についても何回か講演させて戴きました。
そこで、改正相続法の上手な使い方と思わぬ落とし穴について、3回に分けて説明することにしましたが、今回はその2回目です。
なお、資料と記載しているのは、法務省がHPに掲載した資料をまとめたもので、本HPに掲載した改正相続法説明資料のページですので、参考にして下さい。
弁護士 官澤 里美
第3 預貯金の遺産分割前の払戻し制度の創設 [資料.6p]
1 一定金額の預貯金の払戻し(民§909の2)
相続人は、遺産である預貯金のうち次の計算式で算出された額については、単独で払戻しをすることができる。
相続時の預貯金の額(口座基準)×1/3×法定相続分
但し、1金融機関からの1相続人が払戻しを受けられる上限は150万円
2 家事事件手続法の保全処分の要件緩和(家事事件手続法§200③)
預貯金債権の仮分割の仮処分について、急迫の危険を防止する必要がある場合でなくとも、債務の弁済、生活費の支弁等のため預貯金の払戻しの必要がある場合は、裁判所への申立により認められるように要件が緩和。
Q.1 Dは、宮城銀行に単独でいくら払戻し請求できるか?
→2400×1/3×1/4=200 但し、上限の150万円
Q.2 Aの死亡が宮城銀行に知られる前に、Cは、キャッシュカードを使って2160万円を払戻し、残金は240万円となっていた。
Dは、単独でいくら払戻し請求できるか?
→ 150万円
Dが単独で払戻しを受けた後、Bはいくら払戻し請求できるか?
→ 90万円
Q.3 Aは、「宮城銀行の預金はすべてCに相続させる。」との遺言を行っていたが、Bの債権者Eが法定相続分1/2の預金1200万円を差押さえた。
Cは、Eに遺言の内容を対抗できるか?
差押え前に遺言の内容を宮城銀行に通知していた場合 → ○
通知していない場合→ ×
注.⇒早めに手続を行わないと、単独で払戻せるお金がなくなったり、遺言の内容を実現できない恐れ!
第4 自筆証書遺言の見直し
1 自筆証書遺言の方式緩和(民§968) [資料.8p]
自筆証書遺言について、全文の自書を要求している点を見直し、添付する財産目録については自書でなくてもよいものとした。
2 自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書の保管等に関する法律) [資料.9p]
自筆証書遺言を作成した者が法務局に遺言書の原本の保管を申請し委ねることができる制度を創設した。
遺言者死亡前…遺言者は申請撤回により原本返還請求可。
死亡後…相続人も原本返還請求不可。100年以上法務局で保管。
家庭裁判所での検認不要で、遺言書情報証明書が発行される。
(注意点)
注.⇒法務局が遺言の有効性を保証はしない!
(第3回に続く)