改正相続法の上手な使い方と落とし穴(第3回)
- 2020.02.14
仙台市で30年以上にわたって数多くの遺言、遺産分割、遺留分請求等の相続関係の事件を取扱い、遺言の書き方等のセミナーの講師を務めておりますが、平成30年成立の相続法の改正についても何回か講演させて戴きました。
そこで、改正相続法の上手な使い方と思わぬ落とし穴について、3回に分けて説明することにしましたが、今回は最終回です。
なお、資料と記載しているのは、法務省がHPに掲載した資料をまとめたもので、本HPに掲載した改正相続法説明資料のページですので、参考にして下さい。
弁護士 官澤 里美
第5 遺留分制度に関する見直し(民§1042~1048) [資料.11p]
1 遺留分とは
被相続人の近親者に留保された相続財産の一定の割合。
(遺産への貢献・遺族の生活を考慮)
兄弟姉妹 →無
直系尊属のみが相続人 →被相続人の財産の1/3
その他 →被相続人の財産の1/2
2 遺留分を侵害された場合は
遺留分を侵害する遺言も有効。
遺留分を侵害された相続人は、侵害を知ってから1年以内に請求可能。
(設例)Xは、農業を営んでおり、妻は既に死亡していた。
長男Yと次男Zがいるのであるが、Yは、Xと同居して農業を手伝ってきていた。
Zは、結婚独立しているが、5年前に自宅を建てる際にXから700万円の贈与を受けている。
Xの財産としては、Yと同居している土地建物と田(時価合計1000万円)及び預金600万円がある。
Xは、全財産をZに遺贈するとの遺言を残して死亡した。
Yは、Zに対し、遺留分についてどのような請求ができるか?
Yの遺留分:1600+700(自宅建築資金贈与)=2300
2300×1/2×1/2=575
改正前:遺留分侵害額請求により共有持分を取得する(まず遺贈→その後に贈与)。
不動産について575/1600の持分 →23/64の共有持分 ※いろいろと不便…。
預金600万円について575/1600 →215万6250円
改正後
1) 遺留分侵害額請求により金銭債権を取得する。
575万円の金銭
Zは、金銭を直ちには準備できない場合は、裁判所に対して金銭の支払いについて期限の許与を求めることができる。
2) 相続人への贈与は10年以内のもののみ遺留分算定に加える。
Zへの贈与が12年前なら、1600×1/2×1/2=400
(注意点)
注.⇒遺留分侵害額請求に対して金銭の代わりに不動産を譲渡すると、譲渡した相続人に譲渡所得税が課税される恐れ!
第6 特別寄与者・特別寄与料の新設(民§1050) [資料.13~14p]
相続人以外の被相続人の親族が被相続人に無償で療養看護その他の労務の提供を行った場合には、その者(特別寄与者)は、相続人に対し特別寄与料の請求をすることができる。
(注意点)
注.⇒金銭等の財産上の給付は、対象とはならない!
第7 特定財産承継遺言の効力の見直し(民§899-2) [資料.12p]
~相続させる。との遺言を、民§1014で特定財産承継遺言と命名。
民§899-2で、特定財産承継遺言も含めて法定相続分を超える部分については、対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないこととした。
Q.1 Aは、「自宅をCに相続させる。」との遺言を行っていたが、相続登記を行う前に、Dの債権者Fが自宅についてDの法定相続分1/4を差押えを行った。
Cは、Fに遺言の内容を対抗できるか?
→できない。
注.1⇒早めに相続登記を行わないと、遺言の内容を実現できない恐れ!
注.2⇒「相続させる。」と「遺贈する。」の使いわけに注意!
Q.2 Aは、「自宅の配偶者居住権をBに相続させる。」との遺言を行っていた。
Bは,Aが死亡した後,配偶者居住権を取得できるか?
→できない。
Q.3 Aは、「自宅をBに相続させる。」との遺言を行っていた。
Bは、持戻し免除の意思の推定規定の適用を受けられるか?
→できない。
Q.4 Aは、「自宅をCに相続させる。」との遺言を行っていた。
Cは、相続放棄した場合,自宅を取得できるか?
→できない。
Q.5 Aは、「自宅をCに遺贈する。」との遺言を行っていた。
Cは、相続放棄した場合,自宅を取得できるか?
→できる。
以上